本のはなし

一昨日、国分寺からタクシーで来てくださったお客さまは

絵本の勉強会をされているそうです。

いま、やっているのはバーニンガム・・と言っていたような気がします

遺作?の 『パイロットマイルズ』の話になり、

ちょうど先日 常連の方から紹介されて読んでいたおかげで

なんとか話についていけました。

f:id:cafelegume:20220318203819j:plain

ジョン・バーニンガム&ヘレン・オクセンバリ―絵

ビル・サラマン文 谷川俊太郎訳 ビーエル出版 2021.9

 

その前は「いせひでこ」さんだったのでしょうか

画家としての伊勢さんの生き方を熱く語られていました。

ルリユールおじさん』は

f:id:cafelegume:20220318204733j:plain

講談社 2011

たしか どこかで原画を見たような気がします

バーバラ・クーニーも大好きだそうです。

 

日本の絵本の歴史をさかのぼると

起源は平安時代の絵巻物や鳥獣戯画などに求めることができます。

ただ、本として形を成していくのは

室町時代中期以後の「文正草子」や「物くさ太郎」などの、

御伽草子系の絵巻物に触発された奈良絵本からです。

この奈良絵本は 一冊一冊が手作りのため、

ほんの一握りの人たちだけが享受していました。

やがて 江戸時代前期になると、版木で大量に刷られるようになり

もっと広範な人たちが手に取れるようになります

つまり、印刷出版業が17世紀に初めて出現するのです。

ただ 当初は版木一枚の単色刷りでした。

色がないと寂しいと考えた京都の人が

手作業で丹を筆でさっと塗ったのが丹緑本で、

そのうち緑や黄、藍色なども使われ 

あっという間に江戸や大阪にも広まります。

この印刷出版文化は 版木職人だけでなく

挿絵で食べていける職人も産みだし、16世紀の菱川師宣のように

その後の浮世絵師の土台になっていくんですね。

 

で、最近 西條奈加さんの『ごんだくれ』を読みました

f:id:cafelegume:20220318220237j:plain

光文社 2015

18世紀、円山応挙門下の長沢 芦雪がモデルと思われる吉村胡雪こと彦太郎と、

曽我簫白がモデルと思われる深山箏白こと豊蔵のダブル主人公で、

奇想の絵師とされた ふたりの絡み合いがすごいです。

先日読んだ 澤田瞳子さんの『若冲』も 本当にあったことではないかと

思わせてしまう筆力にびっくりしましたが

こちらは 江戸の狩野派に対して、京都の絵師たちというものが

若冲や蕪村も含めてこんなふうに存在していたんだな

ということがわかるだけでなく、長沢 芦雪や曽我簫白を

もっときちんと見てみたいと思わせるほどの中身でした。

なんといっても、歴史上は彦太郎より18年早く亡くなっている豊蔵が

同時代を生きているのです。たしかに簫白が生きていたら

きっと こうだったんだろうなと違和感がありません。

 

円山応挙や与謝野蕪村、上田秋成などが出てくる

恋しぐれ』も読んでみましたが

f:id:cafelegume:20220318223817j:plain

葉室 麟 文芸春秋2011

こちらは 文章との相性が悪いのか

どんどん苦痛になってきて、途中で止めました。

この人は、いっぱい本を出しているし、

最後まで読めばきっと面白いのかも・・と思います。

でも、限られた時間なので 好きなものを読みたいと

代わりに澤田瞳子さんの『火定』(かじょう)を読んだら

これがまた すごい本でした。

f:id:cafelegume:20220318225616j:plain

PHP研究所 2017

こちらは ずっと昔 奈良時代737年の話で、

新羅に行った使節団が持ち帰った疫病と戦う

薬院が舞台です。

長屋王を殺して栄華を誇った藤原4兄弟が

みんな罹患して死んでしまい 日本の歴史が変わったとされる

あの天然痘の話なのですが

物語中に藤原4兄弟はほとんど出てきません。

1300年前に疫病と向き合った

奈良の人々の姿が 浮かび上がってくる小説でした。