大津絵

大津市役所で、職員10名がコロナに感染し

今週末から5月6日まで本庁舎を閉鎖するというニュースがありました。

 

大津は琵琶湖の南端にある、滋賀県の県庁所在地で

先日亡くなられた前川恒雄さんが 図書館長をされていた場所です

京都からは だいぶ離れた場所にあるような気がしていましたが

地図で調べたら、すぐ近くでした

京都市役所と10㎞と離れていません。

大津が立川駅だとすると、京都市役所も京都県庁も

三鷹より近くにあるのです。

 

近畿に住んでいる方や 大津を知っている方なら常識なのでしょうけど

いままで私の頭の中では 大津と京都は何十キロも離れていたので

調べるって大事なことですね

 

大津は京都の外だけど すぐ近くなんです

つまり、京都から伊勢参りをする時や、

東海道中山道北陸道を通って旅する時の始まりにあるのです

東国の人たちにとっては、帰り道の最初にあることになります

こうした地理的な条件からか、

江戸時代、大津では旅人向けの商いが盛んになり

旅人はここで、物資を調達したり土産物を購入したりしました。

 

その、土産物の一つが「大津絵」です

天台宗三井寺真言宗石山寺などの存在もあり

宗教文化が盛んな大津は たくさんの巡礼者が行き交っていました

その人たちが買い求めたのが さまざまな仏画です

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                    矢野有氏所蔵

 

大津百町の西端にある、追分や大谷で製作された大津絵は

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菱川師宣 東海道分間絵図 第五帖18 国立国会図書館デジタルコレクションより

「大谷」の右に「此へん池川とて針、佛絵いろいろ有」とある

 

それまで上流階級の物だった絵画を 民衆のもとへと届け

縁起物として、あるいはお札のようにありがたがられました。

17世紀は、ほとんど神仏画でしたが

やがて、世俗的な画題や諧謔的要素を持つようになり

18世紀には かなりユーモラスな画風も見られます

19世紀になると、それまでたくさんのパターンがあったものが

10種ほどに整理されていき、単なる護符のようになっていきます

 

江戸時代の大津絵は、ほぼ消耗品でしたし

ある意味 粗製乱造なので 美術品として扱われることもなく

残存するものは少ないのですが

明治に入って高橋松山という人が工房を作って 現代までつなげたり

楠瀬日年という人が、大正以後に大津絵を体系的に全部描き止めていたり、

嘉納治五郎の甥、柳宗悦や、こけしの研究で知られる米浪庄弌が

集めたものが日本民藝館に核となって残っているので

江戸時代前半の庶民を理解するうえで欠かせない大津絵を

いまでも、楽しむことができます

 

大津絵を紹介する本のひとつに

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角川ソフィア文庫から、クリストフ・マルケさんが2016年に出した

『大津絵 民衆的諷刺の世界』があります

前年にフランスで出版したものの日本語版です。

フランス語でも日本語でも出版できるってすごいですね

マルケさんは1965年にフランスで生まれ、1989年から東大に留学

日本の近世・近代美術史を専攻した人で

たまたま訪れた古書店で楠瀬日年の版画集を手にしたことから

この本が生まれたそうです。 

ただ、この本の絵は、全部 楠瀬日年が描いたものなので

厳密には大津絵ではありません

でもまあ、江戸時代の物が「古大津絵」だとしても

その文化の絶滅を危惧して ほとんどすべての画題を模写し

記憶をとどめるために版画におこしていったのですから

新しい大津絵と思えばいいんですね

 

この「矢の根五郎」は、日本三大仇討のひとつ

曽我物語』の主人公、曽我五郎時致(ときむね)

立膝をついて矢じりを研いでいる絵です

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目的完遂と悪魔よけの効験があるとされているので     矢野有氏所蔵

飾るなら、いまコロナと戦っている医療現場でしょうか

 

私たちには、病魔から身を守り悪鬼を払うとされる

青面金剛がいいかもしれません

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これは、大名行列の供先で六方を踏む槍持奴(やっこ)

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道中の安全を守るんだそうです

 

大津絵にはいろいろなものがあって

外国では日本の漫画の源と紹介されたりもしています

「鬼の念仏」とか、「外法の梯子剃り」ほか

有名な画題がたくさんあるのですけど、

画像の著作権がどうなっているか よくわからないので

みなさん ご自分で検索してみてください