ぬかみそ漬けは 遠い子どもの頃の記憶を呼び起こします
ぬか床をかき混ぜては いろいろな野菜を埋め込んで
表面を平らにならしていた母の手が
つるつるに輝いて見えたこと、
はじめて ぬか床を触らせてもらったときの
あの、ぐちゅーという触感にびっくりしたこと、
かき混ぜていたら 塩分のせいか 爪がどんどん痛くなってきたこと
もう60年くらい前の記憶ですけど
ぬか漬けは そのころ どこでも作っていたのです
子ども時代を過ごした 5世帯か6世帯が入った共同アパートでも
それぞれにぬか漬けを作っていて それがみんな微妙に味が違いました
なんでそんなことを知っているかというと、
子どもの頃は しょっちゅう
よその家にあがりこんでは しっかりご飯をもらっていたんですね
なので、どこにどんなでんぷや つくだにがあるとか、
このうちは 最後に牛乳をかけて食べるとか
ヘンなことに詳しかったのです
ぬか漬けについていえば、ある家は煮干しを入れていて
また ある家は昆布を入れていたりと 微妙に元味が違いました
また、それぞれの家で 好みの野菜が違うので
野菜から出てくる旨みも それぞれ違ってくるんです
ナスが好きな家では、ぬかみその色自体が
黒ずんでいました
塩分もそれぞれに違っていて、肉体仕事をされている家が
一番 濃いめだったと思います
こうした味の基準になったのは うちのぬかみそです
結婚して家を離れてからは
ぬか漬けは スーパーで買うものになり
時々思い立って 糠を買ってきては漬けてみるのですが
毎日かきまぜるというのがネックで
ほとんど夏を超す事はありませんでした
なので、うちの子どもたちには たぶん
これがうちのぬかみその味! というのは ないと思います
でも、ぬかみそはなくても これがうちの味!と言えるものは
たぶんそれぞれに いっぱいあるんじゃないかなあ
なんといっても カフェレギュームの味ですもん
・・と、長々書いて来ましたが
なんで、ぬかみその話を書くことになったかというと
先月 うちの孫娘が
「ぬかみそー!」と 突然言い始めて
ぬかを手に入れ、ぬかみそづくりを始めたんです
いろいろネットで調べたりしながら
毎日 かきまぜて
なかなか おいしいものを作っています
今日は、大根と かぶのあやめ雪と バターナッツが入っていました
バターナッツは、すいかのような甘い香りがして
柿のぬか漬けと言われたら みんなきっと信じてしまうのではないでしょうか
今日はここに 白菜が加わりました
ぬか床って いろいろなものが 入っていって
みんなの味が一つになっていく ワンチームみたいです
ちゃんと夏を越して
ずっと続いていくといいですね
そうしたらいつか
梨木香歩さんが書いている
『沼地のある森を抜けて』新潮社 2005
先祖代々のぬか床のようになって
あるとき夜中に突然 呻きだすのかも・・
そうか
この話、人によってはホラーですね
夜中 楽しそうにぬか床をかきまぜている孫娘には
絶対読ませないようにしなくっちゃ・・